Vol.04EV急速充電器導入事例
公道に急速充電器を設置 横浜市が「日本初」を実現した舞台裏
横浜市 温暖化対策統括本部 プロジェクト推進課/名取 史記様 小室 達郎様

今回導入いただいた施設

センター南駅前ロータリーに50kWの急速充電器を2基設置

今回導入いただいた施設

横浜市とe-Mobility Powerは全国に先立ち、急速充電器の公道設置に関する社会実験を行っています。2021年6月に青葉区しらとり台の公道に急速充電器を1基設置し、2023年2月には市営地下鉄センター南駅前ロータリーに2基設置しました。この取り組みは、EVの普及とCO2排出量削減をめざす横浜市の取り組みの一つで、全国初の公道への充電器設置となったこともあり、メディアでも注目されました。EVユーザーからの評判も上々です。前例のない試みということで、充電器設置のために乗り越えた壁も多く、その舞台裏を探るべく、プロジェクトを担当する横浜市の名取様、小室様からお話を伺いました。

CO2排出量削減など地球温暖化対策に積極的に取り組む横浜市

―全国で初めて公道に急速充電器を設置したのは横浜市なのですね。e-Mobility Powerが設立されて早々に連携協定を締結されたと伺いました。

名取 もともと横浜市では、横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)という事業を通じて、エネルギー需給バランスの最適化に向けたシステムの導入を行うなど、地球温暖化対策について積極的に取り組んできました。取り組みが本格化していく中、国内でe-Mobility Powerという充電インフラを推進する会社が設立されたことを受け、横浜市としてはCO2排出量削減を目的としたEV普及を加速させるため、同社と連携することは自然な流れでした。

―素朴な疑問なのですが、既に商業施設やディーラーなどにも急速充電器は設置されていますよね。なぜ公道に急速充電器を設置しようと考えたのですか?

名取 発想はすごく単純なんです。日本はEVの普及が欧米よりも遅れている。どうしたらいいだろう?と考えたときに、ヨーロッパの道端にEVがずらっと並んで駐車しながら充電している姿が思い浮かんだのです。日本でも路上にパーキング・メーターが設置されていますよね。駐車している間に充電することができれば、一石二鳥じゃないか!という発想があったのです。

―公道で充電できることはEV普及のポイントでもあると?

名取 そうですね。やはりEVの普及のためには出先で気軽に充電できるインフラを整えることが重要だと感じています。都心部においては、駐車場も少なく、あったとしてもスペースが限られているため急速充電器を設置しにくい状況です。このような状況を踏まえ、公道は設置場所として魅力的だと考えています。

困難を極めた設置場所の選定

―設置の実現までには、場所の選定など大変な苦労があったとのこと。

小室 2019年にe-Mobility Power が設立され、すぐに連携協定を結んだものの、実際にしらとり台の公道に急速充電器を設置できたのは2021年です。設置まで1年以上かかっています。その間、何を行っていたかというと、ずっと場所の選定や交渉を行っていました。

名取 今でこそEVが身近な話題となっていますが、当時は今ほど話題になっておらず、急速充電器を設置するための交渉においても、「なぜEVの普及が必要なのか?」「なぜ公道に急速充電器が必要なのか?」そこは様々な方から本当によく問われましたね。パーキング・メーターに併設するのは一旦断念せざるを得ませんでした。

―思い描いていたヨーロッパのような充電の姿は一旦断念したと。計画の実現が難しくなって、そこからどんな風にプロジェクトを進めたのですか?

名取 e-Mobility Powerの担当者と一緒に、地図アプリを使って片っ端から「ここに設置できそうだ!」という場所を見つけては実際に現地へ行き、周辺の状況などを確認、道路の幅の確認など現地調査を行いました。自分たちの足でぐるぐる回って写真を撮って、資料を作成して、関係各所に提案して。横浜市内の横浜駅から関内駅、みなとみらい、桜木町など、いわゆる都心部はすべて網羅したつもりです。
最終的に、ここなら具体的な検討を進めてよいと許可をもらったのが、青葉区しらとり台でした。

―そこから国土交通省が行う社会実験の制度に応募したのですね。

名取 社会実験という制度があることを知って応募し、「道路に関する新たな取り組みの現地実証実験(令和2~3年度)」として採択されました。そこから実証実験という形でやっと設置できたのが、2021年の1基目だったのです。警察や市の担当部署からの道路の使用許可/占用許可はもちろん、地元の方の理解も得て、山積する課題を一つ一つクリアしてやっと設置することができました。あまりにも愛着があって、今では周りの職員から「名取さん、充電器が我が子のようですね」と冗談半分に言われています、笑。

小室 そうですね。名取さんは休日でも近くを通ると急速充電器の設置場所に寄って様子を見てくるし、周りの職員みんなに毎回状況報告しているんですよ、笑。

想定以上の利用状況

―結果的に1基目のしらとり台は非常にいい場所だったようですね。国の実証実験ということでwebアンケートや利用者へのヒアリングも行ったと伺いました。

名取 正直こんなに利用されるというのは想定以上でした。近隣にEVユーザーが比較的多かったこともあり、利用回数が伸びたのではと考えています。初年度の利用回数は月平均250回ほど、2022年度は300回と右肩上がりで、2022年12月は400回以上にも上ったんです。

―アンケートでは96%が継続して利用したいという結果が出たとのこと。利用者からはどのような声をいただいたのですか?

名取 EVのドライバーさんは環境意識が高い方が多く、行政として公道設置の取り組みをどんどん進めて、PRしてほしいという声を頂きました。公道の急速充電器は、お店で何か買わなければいけないと感じることもなく、“気兼ねなく充電できるのがいい”と言う意見も多くありました。

小室 市の職員が3日間現地に張り付き、充電に来たドライバーさんに直接お話を伺い、お住まいの地域や利用頻度などについてヒアリングを実施しました。利用してくださるのはほとんどが地元の方。やはり地元の方から好意的な意見をうかがえると、設置してよかったなと思います。

―しらとり台での実績があって次のセンター南駅前ロータリーだったのですね

名取 しらとり台の充電器が好評で大きな問題なく運用されていることもあり、2箇所目であるセンター南駅ロータリーは1箇所目ほど関係者協議が難航することなく実現できました。私たちも自信をもってプロジェクトを進めることができました。

―センター南駅前ロータリーでもたくさん利用されるといいですね。

名取 e-Mobility Powerと連携するにあたり、これからも私たちは自治体の役割として、道路管理者との協議であったり、地元の方とのやり取りであったり、関係者との調整には力を入れていきたいです。その結果が、充電器ユーザーの便利さという、お金に変えられないような価値に繋がると思っていて、そんな想いでe-Mobility Powerとは協力体制を図って進めていきたいと考えています。センター南駅前ロータリーの第2弾で終わらせることなく、今後第3弾、第4弾という形で新たな活動に繋げていければ良いなと思っています。